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家のなかで、音楽が育まれていく。ドキュメンタリー『Music is HOME』が届けるもの【後編】

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「今の世の中、目まぐるしく色々なことが起こるけれど、そんななかでも俺らミュージシャンにできること……微力かもしれないけど、something warmなものを届けたい」

日本唯一のヴォーカリスト&フリューゲルホーンプレーヤーとして国内外問わず広く活躍する、TOKUの想いから始まった企画『Music is Home』。ドキュメンタリー作品として、ひとつの曲が育まれていく過程をそのままフィルムに納め、出来上がった楽曲の演奏は一発録りにこだわっています。

インタビュー記事の前編で紐解いたのは、彼がドキュメンタリーにこだわった理由と、楽曲に込めている想い。後編の本記事では、音楽をつくるためのスタジオではなく、人が暮らすための「家」だからこそできたこと、メンバーそれぞれにとっての家という存在について語っていただきました。

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一軒家でレコーディングできる場所は、
今の日本にはほとんどない

──今回は一軒家の中で楽曲を作っていただきましたが、いつものようにスタジオで行うのとは何か違いを感じましたか?

沼澤:やっぱりさ、まず光が気持ちいいよね。スタジオって、こんなに自然光がいっぱい入ってこないじゃない。

クロエ:もっと暗いし、狭いですよね。今回、制作する場所にこれだけたくさんの自然の光が入っていることの重要性をすごく感じました。

TOKU:うんうん、そうだよね。スタジオはスタジオで、ガッ!と集中するよさもあるんだけどね。僕は3年前にパリでアルバムを作ったときに、ピアノの上に窓があってうっすらと、自然の光が入ってくるレコーディングスタジオで収録をしたことがあるんです。オーナーさんの趣味がたくさん詰まってて、ビリヤード台なんかも置いてあったりしてね。やっぱりそういう空間と日本での一般的なスタジオとでは、楽曲を作るときの心地がだいぶ違いますよね。

田中:ハウススタジオというわけでもなく、日本でここまで開放的な一軒家でレコーディングするとか、なかなかないですよね。

沼澤:いやぁ、日本ではないよね。例えば山中湖のほうとか、ハウススタジオで合宿レコーディングみたいな感じで行ってやることはあったとしても、ここは本当に一軒家だから。逆にブラジルなんかでレコーディングするときは、こういう広々としていて光の入る空間が割とスタンダードなんだけど。それも、そういった地域でスタジオを作ってるから可能になってるわけで、今回の一軒家とはまた違うよね。

このお家を見たときはびっくりしましたよ。本当にここでやるの?苦情とか大丈夫かな?って(笑)。こういうふうに機会をつくってもらわないと、絶対にできないことだなぁと思います。

TOKU:本当にそうですよね。日本は基本的に住宅が密集しているし、どうしても近隣の迷惑になってしまう。スタジオとして建てられたわけでもなく、本当の住宅でレコーディングできるのは貴重ですよね。

沼澤:もちろん近隣環境には左右されるけれど、でもこういう住宅の使い方もいいんじゃないですか?ってひとつの提案にはなりますよね。ハウススタジオとはまた違ってね。

田中:今回もこの作品を制作するために、剥がせる壁紙などを利用して内装も変えていただいたということですが……やっぱりデザインも重要ですよね。部屋のテイストを変えるだけでそこに流れる空気感もガラッと変わるので、楽曲との相互作用を意識しながら内装をデザインするっていうのも面白そう。

HomeとHouseは別のもの
メンバーそれぞれが思う「家」とは?

TOKU:僕は地元が新潟の三条市で、よく深い雪が降っていたんですよね。小さい頃は、2階の窓から外に出たこともあったな。小学校の頃に違う町へ引っ越したんですけど、そこもやっぱり雪が降るところで。ドカ雪が降るとまずはうちの親父がドアに体当たりして、通れるくらい空いたら出て行って、スコップで道を作ってくれて、僕らがそこから出て学校へいくというような、記憶が今でもありますね。

沼澤:同じ日本なのに 僕は太陽がないところで生まれ育っているんですよね(笑)。僕は生まれも育ちも新宿なので。なのでここ数年、昇るところから沈むまで太陽が入る家を探しています。今は、朝から電気つけないと暮らせない環境なので。今回このお家に来て、やっぱりいいなぁ。これこれ!って感じてます。

森:新宿は昔もそうだったんですか?

沼澤:昔はそんなことないですよ。もっと空も広かったんですけどね。今は家へ帰っていくと徐々に空がなくなっていくような状態ですね。

TOKU:やっぱり自然の中に住むのは、大変だけど最高ですよね。

──皆さんにとって「家」はどんな場所ですか?

クロエ:歌詞のなかで「music is that feelig we can share」って言葉があるんですけど、家もまた、人と人を繋いでくれる場所じゃないかな。どこにいたとしても。コミュニティがある場所が、Home。

沼澤:自分はもう確実に、家族がいたところ。両親がいたところに帰ってきたときに「家に帰ってきたな」って感覚があります。アメリカにいた時とかは1人で暮らしてたんですけど、彼らがいないと、全然家じゃないなっていうのは日々感じてました。HomeとHouseってこんなに違うんだって。

TOKU:あ〜、HomeとHouseか。

沼澤:朝から電気つけなきゃいけないようなところでも、やっぱり母親がいるところはHome。だから1人で暮らしてるとやっぱり、「なんでここに住んでいるんだろう?」って思い始めちゃって。

TOKU:家族がいるところなんですかね。

僕にとっては、家族がいるところなのはもちろん、自分が一番落ち着けるところがHomeなのかなぁ。あたたかいところ、家族と過ごすところ、ホッとする、自分のスペースとか、いろんな意味がありますね。やっぱり家の中で音楽を作って、セッションしてレコーディングしてっていうのは、心が落ち着きますね。リラックスできる。

沼澤:リラックスしすぎてこのまま眠れちゃいそう(笑)。

TOKU:今回の企画はやっぱり、ミュージシャンたちがひとつの家に集まって、肩肘を張らずに日常のなかで音楽をつくっていく過程をフィルムに納めたかったので。それが実現できたこと自体が、僕にとって「House is entertainment」だったなぁと感じています。

こんなにリラックスできる、戸建のお家で実現できたってことがね。やっぱり。

沼澤:お誘いをいただいたときは、「え〜、日本でこんなことさせていただけるんですか?」っていう気持ちでしたよ。こういうのって急に「みんなで集まって音楽やる?」って招集かけるのもやりにくいじゃない。日本の住宅だとすぐに警察来ちゃうしね(笑)。

TOKU:本当に。僕たちも、貴重な体験をさせていただきました。このリラックスした家の中でどんな音楽が生まれたのか、またその過程にあるものを『Music is Home』で感じていただけたらなと思います。

filmbum ORIGINAL『Music is Home』